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「辞める背中を押される」“農業離れ” 懸念の声 肥料や燃料の高騰と資材不足で食を支える現場にも中東危機の影響【報道特集】

経済
2026-06-06 20:59

私たちの食を支える農業にも中東危機の影響が現れ始めています。燃料や肥料の高騰に加え、ビニールハウスなど資材の供給も不安定に。農業離れが加速するのではないかと懸念の声が上がっています。


【画像で見る】軽油価格(1Lあたり)の推移


台風でビニールハウス被害も… 中東情勢で“フィルム”が供給不安定に

各地に被害をもたらした台風6号。3日、茨城県鉾田市では停電や強風による倒木などが相次いだ。


破れたビニールハウスの応急処置をする農家の姿もあった。


Q.けっこう新しい?
農家

「新しいビニールだよ。12月に被せたやつ」


このビニールハウスで栽培されているのはニラだ。


Q.ニラは大丈夫ですか?
「ニラは大丈夫、強い。(ビニール)なくても大丈夫。寒い時はダメだけど」


鉾田市は、野菜の産出額が10年連続全国トップの農業王国だ。メロンやイチゴなどのビニールハウスが、市内のいたるところに並んでいる。


4日、農業資材を取り扱う鉾田市内の会社には、台風被害を受けた農家からの相談が相次いでいた。


茨城農材鉾田 山口晃代表
「(風で)ハウス持ち上がっちゃったの?修繕したところでフィルムがないと戻らないってことですか。持ってるものもなくはないので、なんとかしますんで」


相談の多くは、破れたビニールハウスを補修するためのフィルムに関するものだ。


茨城農材鉾田 山口晃代表
「今メロンが最盛期なので、メロン屋さんがメロンを守らなきゃいけない。たまたま残ってる手持ちのフィルムで必要な分だけ切って(農家に)届ける」
「普段はあまりやらないですけど」


Q.通常はどう対応?
「通常は加工メーカーがあるので、加工してもらって持っていくんですけど、頼んだところで『ごめんなさい』『今すぐできません』ってなっちゃう」


ビニールハウスのフィルムは、原油から精製されるナフサ由来の原料で作られている。中東情勢の悪化でフィルムの供給が不安定になっているという。


影響はビニールハウスの補修に留まらない。


茨城農材鉾田 山口晃代表
「ハウスを新規で建てて、骨組みは立ち上がりました。ですけどフィルムがないので、どうしようかっていう現場がポツポツ出てきている状態」


新しいビニールハウス用フィルムの状況について、商社に問い合わせると…


茨城農材鉾田 山口晃代表
「3分の1はとりあえず希望のもので捻出できそう。残りの3分の2は製造してからになっちゃうんですけど、この間までは回答もなかったので、ちょうど2か月前に言った話がようやく決まってきているところ」


先々の見通しがなかなか立たないという。


茨城農材鉾田 山口晃代表
「うちの商売もかなり末端の方なので、もう少し上流になるとわかるところもあるかもしれないですけど、正直はっきりした理由は分かりかねる」
「これが長引いていくと後々は食の問題に繋がる懸念はある」


クリスマスを彩る、あの果物への影響も懸念されている。


「身を削るしかない」イチゴ農家が毎年張り替えるフィルムの納品見通せず

鉾田市のイチゴ農家・鎌田充貴さん(48)。11月から始まる収穫に向けて、今イチゴの苗を育てている。


イチゴ農家 鎌田充貴さん
「デリケートでイチゴは弱い。暑さ・湿度に弱くて、収穫できるまでになるにはすごく長い道のり。消費者に食べていただく、それまでのドラマがすごい」


例年約100トンのイチゴを出荷しているという。しかし、次のシーズンに使うフィルムが、まだ調達できていない。


イチゴ農家 鎌田充貴さん
「イチゴに関しては毎年新しいもの(フィルム)を張り替えないとダメなのが一番大変」
「値上げは今まで何回かあったけど、納品できるかどうかわからないというのは経験したことない。すごく不安です」


イチゴのハウスに使っているフィルムは、保温性が高く太陽の光を通しやすいものだ。毎年10月にすべて張り替えるという。


約50棟分のフィルムが必要だが、まだ納品できるかわからないとメーカー側から言われている。


イチゴ農家 鎌田充貴さん
「納品されないと、これをまた使うしかない」


Q.昨シーズン使ったものを、もう一度使わないといけない?
「古いビニールだと汚れているから、(入る光が)弱くなっちゃう。そうすると経験したことないけど2~3割とか、もしかしたら50%とか、収量が落ちてしまう可能性が高い」
「保温性も悪くなるので(冬に)暖房を焚かないといけない。燃料費ももっとかかる」
「3割ぐらいすべてのコストが上がってる中で、3割生産量が落ちてしまったら、もしかしたら赤字になってしまう可能性もある。そしたら作らない方が良くなっちゃう」


無事にフィルムを張り替えられたとしても、不安は残る。


イチゴ農家 鎌田充貴さん
「納品されても値段が高くなってしまう、でも価格転嫁は難しい。農家の経営は身を削るしかなくなってしまう。同業者と集まっても、明るい話はあまりないですよね、いつも」


「フィルム入手しづらい」背景 “事前の買い込み”需要 供給量上回る

農業用ビニールハウスのフィルムメーカーは、どのような状況にあるのか。


ナフサ由来の原料を使用し、農業で広く使われる2種類のフィルムを製造する大手・タキロンシーアイに話を聞いた。


タキロンシーアイ アグリ事業部 長井匡生部長
「購入する原材料の、原材料の原材料みたいなものが原油。これが一時的に流通量が少なくなったことで、我々のところに来る原材料にもその分影響があって」


5月ごろ、原料の供給量の見通しが一時不安定になったが、海外からの輸入などで、安定した出荷を維持してきたという。ただ、避けられなかったのは価格転嫁だ。


原料の仕入れ価格が高騰し、この春、2種類とも約30%の値上げに踏み切った。すると、顧客の動向に変化が。


本来、4月から5月は春の苗の植え付けが終わり、フィルムの需要は落ち着いているというのだが…


タキロンシーアイ アグリ事業部 長井匡生部長
「不需要期でメーカーも在庫が少ないところに、先行き不安感や大幅な価格上昇もあるということで、先々使うものを確保したいという思いがあって、事前に買い込んできている状況。(顧客の)欲しい気持ちには応えられていない」


こうした需要が想定を超え、供給量を上回る状況なのだという。


タキロンシーアイでは、1か月半から2か月先の原料調達の見通しが立ち始めた。


フィルムの需要がピークを迎える9月から10月に向けて課題は…


タキロンシーアイ アグリ事業部 長井匡生部長
「(原料の)調達エリア、範囲、ルートを、チャンネル増やしている」
「原料をかき集め、トップシーズンまでに稼働を上げて積み上げていく。今、その真っ最中」


“コスト高騰”に悲鳴をあげる米農家 "米農家離れ”加速を懸念

中東情勢の影響は米作りの現場にも及んでいる。


今週、田植えのピークを迎えた秋田県大潟村。土を整える「代かき」のため重機がせわしなく動いていた。


大潟村あきたこまち生産者協会 涌井徹代表(77)
「1万5000〜6000リッター。ドラム缶で80本くらい使う」


Q.それはどのくらいの期間で?
「2か月間」


燃料の「軽油」は、中東情勢の影響で一時1Lあたり178.4円に高騰(3月16日)。


政府からの補助金が入っても、2025年の同じ時期と比べて5円ほど高い158円前後での高止まりが続いている。


約170ヘクタールの広大な水田を抱える涌井さんにとっては、痛手となっている。さらに。


大潟村あきたこまち生産者協会 涌井代表(77)
「まず肥料をまく。種と肥料を一緒にまく」
「我々人間がご飯を食べるのと同じこと。肥料は作物にとってのご飯」


作物の成長に欠かせない肥料の値上がりが追い打ちをかける。


世界で輸出される全肥料の2割~3割がホルムズ海峡を通っているため、世界中で肥料の価格が上昇。化学肥料をほとんど輸入に頼る日本にも影響が出ている。


国内で流通する肥料の半数を扱うJA全農は6月から最大で14.5%値上げした(6月~10月)。


涌井さんたち農家のもとに届く段階になると、肥料の価格はさらに上がるという。


大潟村あきたこまち生産者協会 涌井代表(77)
「(肥料の)原料単価で15%上がる。原料を加工し運送してくる。全てにおいてコストアップになる。運送に物流、ガソリン、油代、ガス。(手元に届く)商品単価としては多分2割以上あがる」


米の加工販売も行っている涌井さん。この工場では、パックご飯を1時間で約1万800食作っている。ひと月で見ると550万食にのぼる。


米を炊くガス代やパック容器代など、1食あたりにすると10円ほどの値上がりで、数千万円のコスト増加となっている。


大潟村あきたこまち生産者協会 涌井代表(77)
「電気、ガス、容器、トップシール、包装。みんな値上がりする。もう全部、もう全部だもんね」


運搬する時に段ボールが崩れないよう包むフィルムも、ナフサ由来だ。現在は、コストを切り詰めているが、今後は“価格転嫁も避けられない"と話す。


大潟村あきたこまち生産者協会 涌井代表(77)
「中東問題は油の問題から、肥料・ナフサの問題、全て」


Q.コスト面で言うと、結構な負担になる?
「コストが上がった分、商品として価格に転嫁できればいい。なかなか日本の農家も含めて、弱いから転嫁できない」


農水省が5年ごとに発表している統計によると、2025年時点で米農家は、15年前と比べ半減している。


涌井さんは、中東情勢の影響で経営が厳しくなれば、米農家離れがさらに加速するのではないかと懸念している。


大潟村あきたこまち生産者協会 涌井代表(77)
「もう農業を辞める準備に入りますと、これがきっかけになる。去年は米価が高くなった。それでも農業を辞める人が止まらない。今回は農業を辞めるための背中を押される、みんな一挙に。国はしっかりと考えていかないとダメかなと」


国連機関「食料危機のおそれ」 肥料の不足・高騰が招く収穫量減少リスク

FAO(国連食糧農業機関)のチーフエコノミスト、マッシモ・トレロ氏は、ホルムズ海峡を通る肥料が激減したことによる食料価格の上昇は、これから表面化していくと指摘する。


FAO チーフエコノミスト マッシモ・トレロ氏
「人々の心配の種は今、エネルギーですが、数か月後には価格が上がる食料に移るでしょう」


FAOによると、すでに必要な量の肥料が届かない国があるほか、一部の肥料価格が50%上昇している国もある。肥料の不足や価格高騰の影響が、作物の収穫量に現れるのは数か月先だという。


FAO チーフエコノミスト マッシモ・トレロ氏
「農業のコストが大幅に上昇しています。農家は、肥料を減らすかどうか決めないといけません。収益性を考えて肥料を減らせば、収穫量は低下します。その影響は、今年の後半に明らかになるでしょう」


輸入する肥料の6割以上を、中東に依存するオーストラリアでは、すでに大きな影響が出始めている。


オーストラリアの小麦農家
「肥料価格が2~3倍になるなんて、全く想像していませんでした。小麦の栽培面積を縮小しました。一部の畑には何も植えず、牧草地にするつもりです。今年は畜産の規模が少し大きくなるでしょう」


オーストラリアは世界第2位の小麦輸出国だ。


10月以降に収穫期を迎えるが、生産量は26%減少する見込みだという。これにより輸出は1000万トン減る可能性がある。世界の年間輸出量の5%に相当する量だ。


輸入小麦の約2割をオーストラリアに頼っている日本にも、影響が及ぶ可能性がある。


FAOのトレロ氏は、地域によっては食料危機になるおそれも指摘した。


FAO チーフエコノミスト マッシモ・トレロ氏
「収穫量の低下で食料価格はさらに上がり、世界的な食料インフレが引き起こされます。このままだと、年末か来年にも食料危機に直面する可能性があります」


日本が抱えるリスクは? “農業政策を見直す必要”と指摘も

小麦の国内需要量の約8割を海外から輸入している日本。


財務省の貿易統計を見ると、10年前と比べ、大豆や小麦、とうもろこしなどの輸入品の価格は上昇傾向にある。


日本の農業政策に詳しい日本大学法学部・西川邦夫教授は、食料品を海外からの輸入に頼ってきた日本のリスクについて、次のように話す。


日本大学法学部 西川邦夫教授
「この3〜4年で、ウクライナ戦争や今回のホルムズ危機もそうですが、海外からものが入ってこなくなるかもしれないというのが、現実的な問題としてあった。これまでは日本は所得が高い国で、お金を出せば少々高くても輸入ができると考えていた。もしかしたら本当に来ないかもしれない、物理的に来ないかもしれない状況になってきた」


このタイミングで、農業政策を見直す必要があると指摘する。


日本大学法学部 西川邦夫教授
「海外から高い農産物とか資材を買うか、高い国内の農産物を買うかという選択になったときには、国内で作っておいた方がより安全。国民の生活にとって、保険になるということを、もう少し生産者側も消費者側も、理解を深めていく必要がある」


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