
経済対策の行方が注目される中、日米関税交渉にトランプ大統領が異例の出席を果たし、日本政府に衝撃を与えた。一方、物価高対策では現金給付を見送る方針が固まったものの、参院選を控える自民党議員からは減税を求める声が高まっている。気になる経済対策方針の舞台裏を取材した。
トランプ大統領の電撃出席、訪米前には赤沢大臣の根回し不足で党内不和も
第一回日米関税交渉にトランプ大統領がサプライズで出席することになり、日本政府に衝撃が走った。前夜遅くには、総理公邸に林官房長官や外務省幹部が次々と入っていく姿が目撃されるなど、想定外の事態だったことがうかがえる。
自民党閣僚経験者は「役人から『今回はお互いの腹の探り合い程度で終わる』と聞いていた」と述べ、「今から総理が行っても間に合わないし、赤沢大臣の交渉がうまく行かなければ、総理の任命責任も問われるのではないか」と交渉の行方を固唾をのんで見守っていた。
トランプ大統領は自身が交渉の場に出てきた目的について、「在日米軍の負担についても話し合うつもりだ」と発信。これに対し、日本側は強い懸念を抱いた。というのも、赤沢大臣が訪米前に自民党幹部や重鎮のもとを回り、様々なアドバイスを受けた中で、ある自民党幹部から「アメリカとの交渉で、日米安保については一切話すな」と釘を刺されていたという。それほど、在日米軍の駐留経費など日米の安全保障について何か求められることを懸念していた。
しかも、交渉を任された赤沢大臣が、訪米前に森山幹事長との間に軋轢を生んでいた。そのため、党内では不安の声が高まっていたのだという。
政治部記者によると、赤沢大臣が森山幹事長や党内に事前の相談や根回しをしないまま、農水省に日米交渉の“材料出し”を指示したことに、森山幹事長が激怒。その後、赤沢大臣が森山幹事長に謝罪する事態になった。
トランプ関税という“国難”への対応が急務となる中、交渉に臨む以前の、国内の体制づくりに不安が残るスタートとなった。
石破総理らが水面下で経済対策を協議 「現金給付見送り」の背景
物価高対策が急務となる中、石破総理は15日に官房長官、幹事長、政調会長と水面下で会合を行った。この会合後、政府・与党は「本予算で積んだ予備費などを活用して、物価高騰対策・経済対策をパッケージで打ち出していく」という方針を固めたという。
一方で、今国会への補正予算の提出は見送られることになった。
では、なぜ補正予算を組んで現金給付を打ち出すのではなく、予備費でできる範囲で物価高騰対策や経済対策をしていくことになったのだろうか。
■政府・与党内で検討された5つの案
1. 現金給付:これまでの経験から、給付しても貯蓄になってしまい消費につながらないこと、バラマキと批判されることが懸念された。
2. 商品券、ポイントでの給付:バラマキ批判を受ける可能性があり、準備期間もかかる。現金給付に比べて魅力が低いという問題もある。
3. 物価を下げる補助金の追加:電気・ガスの補助やガソリン価格の引き下げなどを行う方針を決めた。
4. 予備費の積み増し:7400億円の予備費をさらに積み増す案。予備費を積み増すための補正予算の編成であれば野党の協力も得られる可能性があったが、今回は見送られることに。
5. 重点支援交付金の追加:地方によってニーズが異なるため、自治体の首長が用途を考えられるという利点がある。
これらの案の中で、特に現金給付については、世論からの批判が強いことが見送りの大きな理由となった。「総理の10万円の商品券配布問題で、5万円配っても批判、たとえ10万円配っても不満は出てくる」と政治部記者は指摘する。
一方で、減税案については財政規律派の森山幹事長が特に慎重な姿勢を示しているという。森山幹事長は「国際的に日本の財政が信任を失ったら、大変なことになるということを我々はしっかりと認識をして、政治を進めていかなければいけない」と述べ、財政規律の重要性を強調。
官邸と党本部での意見の相違から、当初は減税を選択肢の一つとして考えていたという石破総理も、その後の記者会見では「税率引き下げは適当ではないと考えている」と否定する発言に転じた。
参院選が控えるなか、松山参院幹事長からは「減税」の言葉も
森山幹事長を筆頭に党内では減税慎重派が多い中で、夏に参院選を控える参院自民党からは「このままだと選挙を裸一貫で戦うことになる」との懸念の声が上がっている。改選となる議員からは「選挙対策として減税をやってほしい」との要望も出ている。
石破総理は、意見が割れる党内をまとめることができるのか。カギを握るのは、「減税も選択肢の一つとして考えている(自民党関係者)」の松山参院幹事長だ。松山幹事長は、参院議員を対象とした経済対策に関するアンケートを実施。その結果を官邸に提言しようとしているという。
参院幹部からは「食料品など対象を絞った上で、2年間に限り消費税を引き下げた方が良い」との意見も出ていて、参院選前に自民党が減税を打ち出す可能性もあるのか、今後の行方が注目される。
一方で、党内からは「もし減税するのであれば、増税の時と同じように国民の信を問わないと。将来に負担を先送りすることになるから、若年層の意向も聞く必要がある」と指摘する声も上がる。
今後、政府・与党がどのような経済対策を打ち出すのか、そしてそれが参院選にどのような影響を与えるのか。トランプ関税への対応と合わせて、目が離せない政治情勢が続きそうだ。
TBSテレビ政治部 政調担当・長田ゆり記者
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