
株高にGDPプラス成長の一方で、記録的な猛暑が個人消費に異変をもたらしている。日本経済の今後を占う「3つのシナリオ」とは?
【写真を見る】株価「史上最高値更新」の一方で「猛暑インフレ」も…今後の日本経済“3つのシナリオ”【Bizスクエア】
株価急落のリスクは?
最大9連休となったお盆休み。その期間中に、日経平均株価は連日史上最高値を更新した。
▼12日(火)⇒終値4万2718円【去年7月以来1年1か月ぶりに史上最高値更新】
▼13日(水)⇒終値4万3274円【初の4万3000円超】
▼15日(金)⇒終値4万3378円
この株高の背景として「日本株に対する評価が変わったのでは」と話すのは、番組の株価予想でおなじみ『SMBC信託銀行』の山口さんだ。
『SMBC信託銀行』チーフマーケットアナリスト 山口真弘さん
「関税も“景気が悪くなる”“企業業績が悪くなる”との懸念が、そうでもないという前向きな捉え方になっている。日銀も一旦利上げの話が遠のき、また利上げ観測が足元で出てきて、それが銀行株にプラスに効いているということもある」
2024年8月に起きたような“株価急落のリスク”については―
山口さん
「2024年はアメリカで失業率がパーンと上がって、『アメリカがそろそろ危ないんじゃないか』ということで株価がドーンと下がった。今のアメリカ経済は確かに減速傾向ではあるが、景気後退までには至らないと思うので心配は要らないかなと」
米・財務長官が日本にも“異例”の言及
市場に大きな影響を与えた1つが、米国・ベッセント財務長官の“口先介入”だ。
▼「FRBは9月に0.5%利下げを検討すべきだ」(12日・FOXビジネス)
▼「金利は1.5%から1.75%引き下げるべきだろう」(13日・ブルームバーグTV)
アメリカで9月に利下げされるとの期待が高まったことで日経平均株価は大きく値を上げたが、『第一生命経済研究所』の熊野さんは“異例の発言”だと話す。
『第一生命経済研究所』首席エコノミスト 熊野英生さん
「中央銀行は独立して政策を進めるというのが万国共通の歴史的教訓だが、それを完全に無視して外野から権力者が『利下げせよ』と命じているような発言。トランプ政権がFRBの政策に相当介入しているという動き」
さらに注目なのは、ベッセント氏が“日本についても言及した”ことだ。
▼「日本のインフレ問題が米国債の利回りに確実に影響を与えている」
▼「私見だが、日銀は後手に回っている。今後は利上げすることになるだろう」
(13日・ブルームバーグTV)
――ベッセント氏は、『日銀の植田総裁と話した』とまで言っていた。普通は他国の金融政策はもちろん他国の中央銀行総裁と話したことなど言わない
熊野さん
「ベッセント氏の言っている内容は全く正しくて、私も後手に回っているのは明らかだと思う。ただ、アメリカの財務長官という立場の人がそれを言うのは、FRBは利下げ・日銀利上げで<ドル安・円高>へと間接的に為替に介入する意図があるのではないか。日銀総裁の会見でも『他国の政策には言及しない』と何十回も言ってる。それなのにアメリカの財務長官がやってしまうところが、トランプ政権の掟破りぶりを示している」
GDP1.0%成長も「不安要素」あり
そしてもう一つ、日経平均株価を押し上げた要因の一つが「4-6月期のGDP成長率」が民間の予測大きく上回り年率+1%となったこと。熊野さんは「エコノミストの立場から見るとこの数字には“疑惑”がある」と指摘する。
【4-6月期 実質GDP成長率】(速報値・15日内閣府発表)
▼前期比・年率 +1.0%
<内訳>
▼個人消費⇒前期比+0.2%
▼設備投資⇒+1.3%
▼輸出⇒+2.0%
『第一生命経済研究所』首席エコノミスト 熊野英生さん
「GDPはそんなに伸びているの?という話で、それは内訳を見ればわかる。項目3つの中で一番伸びてるのは輸出で、ここが疑惑の根源。どうも自動車が、トランプ関税の導入と同時に20%以上価格を下げて輸出を増やしたと。だからGDPベースも2%伸びたという数字。今後はそんな値下げはできないので、7-9月期からはこういう高い伸びは期待しにくい」
また、『SMBC信託銀行』の山口さんも気がかりな点があると話す。
『SMBC信託銀行』チーフマーケットアナリスト 山口真弘さん
「輸出増加がプラスに寄与しているのに対して、実需というか実態を示す“個人消費があまり強くない”というところがネガティブな要因かと思う」
猛暑で明暗…好調の『ワークマン』
GDPの約6割を占める「個人消費」だが、記録的な猛暑によるプラスとマイナス両方の影響が出ている。
夏は特に要望が高い<冷感>や<紫外線カット>など、高機能で低価格の商品を販売する『ワークマン』では売上げが伸びている。
ファンの風で冷感を得るプロ向けの空調服を、女性も普段使いできるデザインにした「ウインドコア制菌消臭シェルベスト」(2900円)は、2024年の2倍近くの売上げに。(※ファン・バッテリーは別売り/在庫限り)
また、身体に密着させスイッチを入れるとベストについている金属プレートが一気に“-3℃”になる「冷暖 ペルチェベストPRO2 SP」(2万5000円※在庫限り)も―
製品開発部 土井健太郎さん
「-3℃なので、場所によってはプレートが凍ったりする。少しやり過ぎ感はあるが、それぐらいインパクトがあったほうが喜んでもらえる。やはり価値があるものは値段が高くても販売につながると実感できた」
累計販売数が200万本と、一番売れているのが「アエロストレッチ クライミングパンツ」(1900円)だ。
一見ありふれたワークパンツに見えるが、“動きやすさ”や“速乾性”が特徴で、“紫外線カット”の機能も備えている。
製品開発部 東海林紘志さん
「消費者のお財布に優しく、かつ他社が出すものよりも機能性を追求する。そこを常に追い求めている」
猛暑が追い風となり、6月の全店の売上高は【前年同月比119.9%】と好調だ。
猛暑で「夏野菜や豚肉」高騰
一方“猛暑インフレ”とも言える状況が消費者や飲食店などを直撃している。
東京・立川市の『カラフル野菜の小山農園』では、キュウリやトマトが原形がわからないほど茶色く干からびた状態に。ナスもしわが寄り変形してしまっている。
猛暑の影響で、夏なのに夏野菜が作れない異常事態―
農林水産省によると、8月のトマト・ピーマンの価格は、平年と比べて3~4割ほど上回っている。
影響は野菜だけではない。
豚肉の卸売価格は、7月18日には「1キロあたり948円」と過去最高値を記録した。(※極上・上規格/農林水産省/7月後半以降は普及価格帯の豚肉価格は下落)
価格高騰の理由は、“豚の夏バテ”。猛暑の影響で豚が肉痩せ、繁殖もうまくいかず出荷の減少や遅れが出ているという。
スーパーの客
「すごくつらい。うちは子どもが多いので豚肉がメイン。安くあってほしい」
冷え込む消費「賃上げ」の先行きは?
個人消費の足を引っ張っているのは、“猛暑インフレ”だけではない。
『第一生命経済研究所』首席エコノミスト 熊野英生さん
「食料品価格は3年連続で上がっていて、さらに猛暑で生鮮食料品の価格も押し上げられ、実質消費を抑え込んでいるというのが今の消費の実態」
――そうなると、賃上げがますます大事になってくる
熊野さん
「自動車なども年度で2.7兆円もトランプ関税の負担が増え、その分だけ企業収益が減る。つまり自動車メーカーが儲けたお金が、日本の雇用者じゃなくてアメリカ政府に行っちゃう。その影響でおそらく12月のボーナス減は避けられないと思うし、2026年の賃上げもそこまで伸びないのではないか。消費を支える賃上げがダメとなると、2026年以降の消費にも悪影響が出るだろう」
日本経済「3つのシナリオ」
では、今後の日本経済はどうなるのか。熊野さんは3つのシナリオをあげる。
▼楽観シナリオ【確率20%】⇒所得効果(輸出数量増)で日本経済浮上
▼メインシナリオ【確率50%】⇒対米輸出数量減で景気後退に近づく
▼悲観シナリオ⇒景気後退+物価上昇/世界同時不況/日本の政治リスク
――アメリカの景気が落ちて輸出も減少し、日本もだんだん景気が悪くなる。この可能性が50%と一番高い
『第一生命経済研究所』首席エコノミスト 熊野英生さん
「相互関税が15%になり当初よりは負担額が少なくなったので、“ぎりぎり持ちこたえられるのでは”というのをメインシナリオにしているが、不安はたくさんある。アメリカでもインフレが加速する可能性もあり、アメリカの景気が悪くなると日本のマクロの景気にも悪影響が出てくる」
――持ちこたえられる可能性も20%ぐらいあると?
熊野さん
「今の経済データは結構堅調で、マーケットは“いいとこどり”で楽観シナリオの方に振れている。ただ、そんなにうまくいかないだろうというのがエコノミストの見方」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年8月16日放送より)
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