
トランプ関税の経済への影響はいまだ不確実性が高いとの理由で、日米ともに金利が据え置かれた。一方で、今や世界トップクラスの日本の物価高は「日銀のスタンス」が一因との指摘も。
【写真で見る】「インフレが国民生活に苦汁」でも利上げせず…今の物価高は本当に「供給要因」なのか?
経済界から“利上げ求める声”あがるも…
『日本銀行』植田和男総裁(7月31日):
「関税率がどうなるかという点に関する不確実性は若干低下したと思うが、“一気に霧が晴れるということはなかなかないのかなと思う”」
会見で植田総裁は、日米の関税交渉の合意を「大きな前進」と評価したものの、影響は慎重に見極める必要があるとして政策金利は0.5%に据え置いた。
日銀の会合に先立ち、経済界からは“利上げを求める声”もあがっていた。
『経済同友会』新浪剛史代表幹事(7月29日):
「金利を上げない理由がわからない。インフレが国民生活に苦汁をなめさせてしまっている認識は日銀にあると思う。物価の番人としては、トゥーマッチ・ビハインド・ザ・カーブ(後手に回りすぎ)は駄目」
こうした懸念について植田総裁はー
植田総裁(7月31日):
「現状は私どもが重視している“基調的な物価の動き”は強くなってきているが、まだ2%には届いていないとみている。従って緩和的な金融環境を維持している。それに対する懸念としては、どこか近い将来でビハインド・ザ・カーブ(後手にまわる)になるのではというものだと思うが、今のところそのリスクはそれほど高くないと見ている」
植田発言で円安進み150円台に
また、植田総裁は会見で「(物価)見通しの中で前提としている為替の水準から大きくずれているわけではない」とも発言。
会見開始直後から円を売る動きは広がったが、その後4か月ぶりとなる1ドル=150円後半まで円安が進んだ。
番組の相場予想でもおなじみの瀬良礼子さんは、植田総裁の発言を市場は「円安容認」と受け止めたと話す。
『三井住友信託銀行』瀬良礼子さん:
「植田総裁は、見通しの前提となる為替レートから現状そんなに大きく乖離していないと。これぐらいだったらそんなに気にしなくてもいいんだと、市場は受け取った。為替に関して言わなくてもよかった発言したのではと少し気になった」
米FRB・反対票理事2人は“クジャク派”
一方、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)も7月30日、トランプ関税の物価への影響を見極めるのに時間がかかるとして、4.5%を上限としている現在の政策金利を5会合連続で据え置くことに決定。
また、今回の会合では、第一次トランプ政権時に理事に指名されたボウマン副議長とウォラー理事の2人が「0.25%の利下げを行うべき」として反対票を投じた。
FRBの7人の理事のうち2人が反対したのは32年ぶりのことで、その2人を「クジャク派」と揶揄する声も上がっていると話すのは、マネーマーケットの現場の視点から金融政策を分析する加藤出さんだ。
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「先日ニューヨークに行った時に現地のFedウォッチャーが言っていたのが『従来FOMC(連邦公開市場委員会=米国の金融政策を決定する会合)には2種類の鳥がいたが、3種類になった』と。インフレ抑制を主張するタカと、景気重視のハト。そこにクジャクが現れたと。利下げを主張してトランプ大統領に羽を広げて、私を見て、私を議長にしてと鳴いているという揶揄」
「日銀の慎重スタンス」で物価高⇒消費減
日米とも慎重な姿勢が続く格好になったわけだが、播摩卓士キャスターは日銀・植田総裁への違和感を口にする。
――関税の影響が不確実だから利上げする局面にはないと。それは誰も異論がないと思うが、足元で起きてる物価高に対して非常に冷たいというか、無関心な感じを受ける
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「植田総裁は、(食料やエネルギー価格の高騰など一時的要因の影響を取り除いた)基調的物価が大事だと。つまり、賃金が伸びながら物価が上がっていく“需要の強さに伴う物価上昇”はまだ十分じゃないと言っているわけだが、実際のインフレ率は3%台。今起きているインフレが日銀と全く無関係かというと決してそうではないと思う」
【6月の消費者物価指数】前年同月比
▼生鮮・エネルギーを除く⇒3.4%
▼生鮮除く⇒3.3%
加藤さん:
「慎重に金利を低く据え置いているがゆえに、なかなか円高方向に行かずガソリンや食料など生活コストが上がってしまっている。日銀のスタンス自体が物価を上げてしまって、それによって財布の紐が閉まり消費がぱっとしないという流れが起きている。またコメ高騰は直接的には日銀のせいではないとも言えるが、ベースにインフレへの不安心理がある。そこにコメ不足で慌てて買いに行く、売る側も売り惜しみする方が上がるかなと。そういうのがあるからこそ、今の米騒動になっている」
円安招く「高インフレ」×「低金利」
他国と比較すると、日本のインフレ率は高く、政策金利は圧倒的に低い状況だ。(※各国中銀資料、政府資料より東短リサーチ調べ)
【インフレ率】
▼日本:3.3%
▼イギリス:3.4%
▼アメリカ:2.7%
▼韓国:2.2%
▼ユーロ圏:2.0%
▼カナダ:1.9%
▼スイス:0.1%
【政策金利】
▼日本:0.5%
▼イギリス:4.25%
▼アメリカ:4.25-4.5%
▼韓国:2.50%
▼ユーロ圏:2.0%
▼カナダ:2.75%
▼スイス:0%
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「日本のインフレ率は、先進国ではトップクラス。ガソリンなどの補助金を政府が出してるから3.3%で済んでいるが、それがなければもっと上がる。一方で、政策金利は突出して低い。そうすると政策金利からインフレを差し引いた<実質金利>で考えると、日本は圧倒的に低い。これが基本的に円安を招いている」
複数の国の通貨に対する自国通貨の総合的な価値を示す【名目実効為替レート】を見ると、日本だけ価値が下がっている。
7月22日時点(※2020年の年初=100)
▼ユーロ圏:114.5
▼イギリス:106.9
▼アメリカ:106.3
▼日本:76.8
加藤さん:
「同じく2020年からの期間で原油価格を各通貨ごとに計算すると、ヨーロッパやアメリカは7~8%ぐらいの上昇で大して上がっていない。一方、日本だけは40数%も上がっている。つまりガソリンが高いと今騒いでるのは世界で日本だけで、過度な円安が招いている」
本当に「供給要因」のインフレなのか
日銀の慎重なスタンスが物価高の一因になっていると加藤さんは指摘するが、植田総裁は「今の物価高は供給要因なので、利上げで対応すれば景気を冷やして所得が減る」と話す。
――供給要因、つまり原材料や賃金などのコスト増による物価高だから、それを利上げで対応することは難しいと
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「一般論としては供給要因のインフレで金利を上げると、需要が落ちるから良くないとあるが、そもそも本当に供給要因のインフレなのか。低金利による円安での物価高なので、今の状況なら緩やかに金利を上げる姿勢を見せながら徐々に円高方向に持っていく方が、消費が上向くのではないか。今世界の中央銀行は、コロナ禍後のインフレの教訓として<供給要因><一時的要因>と決めつけることの危うさを認識すべきという議論になっているが、日銀だけが全然別世界で動いている」
――今の局面での利上げは景気を悪くするという点に関してはどうか
加藤さん:
「黒田前総裁の緩和は2013年からだが、この十数年、これだけ利下げをやっておきながら緩和前よりも消費の水準は低いぐらい。金利を下げても日本の場合はあまり消費を刺激しない。むしろ円安が進むと、日本は食料・エネルギーの自給率が低いので生活コストが上がりかえって消費が停滞する。そういうことも併せて考えると過度に低い金利というのは修正していかないと経済全体のバランスが崩れていく」
利上げは「10月、遅くとも来年1月」
では、年内の利上げの可能性はあるのだろうか。
【今後の日銀政策決定会合】
▼9月18・19日
▼10月29・30日
▼12月18・19日
『東短リサーチ』社長 加藤 出さん:
「自民党の総裁、首相がどうなるかという不確実性もあるのでとりあえず9月はないと思う。ただ、国民の痛みに向き合うべきという声は今後高まると思うし、アメリカが為替の関係で、経済実勢に合った金利運営をすべきだと言ってくる可能性があるので10月の利上げはあるかも。仮に利上げに消極的な人が首相になると時期はズレるかもしれないが、そうなると円安が進み結局アメリカから何か言われる。なのでそういう首相になったとしても遅くとも1月までにはあるのではと思う」
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年8月2日放送より)
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