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高市政権誕生で日中関係はどうなる?「保守的で右傾化」中国は警戒

海外
2025-10-28 06:30

台湾との関係を重視し、閣僚在任中も靖国神社への参拝を続けてきた自民党の高市総裁が総理大臣に就任した。隣国の中国は高市政権の誕生をどのように見ているのか?中国の政策決定に対して影響力を持つ政府直属のシンクタンク中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長に話を聞いた。


【写真を見る】中国共産党系の国際紙『環球時報』は1面で高市氏の総理就任を伝えた


高市政権は「新旧が入り混じった政権」

Q.自民党の高市早苗総裁が総理大臣に就任しました。


楊伯江 所長
第一に、高市政権は「新旧が入り混じった政権」だと思います。内閣の新しい点としては、半数以上の閣僚が初入閣で平均年齢は59歳と比較的若く、小泉進次郎防衛大臣はわずか44歳です。そして、政権運営の経験が豊富ではありません。国政での経験が豊富なのは茂木敏充外務大臣や林芳正総務大臣など、限られています。


一方で古さも感じられます。内閣のメンバーが全体的に保守的で右傾化しており、ポピュリズム的な傾向もあるという点です。一部のネットメディアは「日本憲政史上初の女性総理が誕生し日本の政治が進歩した」と指摘していますが、それほど単純な話ではありません。政治理念や政策の主張、歴史観なども含め、古いと感じるところがあります。ですので、高市政権の第一印象としては新旧が入り混じっていると感じました。


第二に、高市政権は「安保内閣」だと思います。自民党と日本維新の会が結んだ連立政権合意書には経済、皇室、社会保障など多くの内容が盛り込まれていますが、原則論が比較的多いと思います。内容が具体的で明確な期限を定めたものは安全保障分野における措置です。外交や安全保障は国家にとってとても重要なことではありますが、国民が最も関心を持っているのは身の回りのことであり、経済や生活に関わることだと思います。例えば、物価の上昇をどのように抑えるのか、インフレーションをどのように制御するのか、といったことです。財政・金融政策をめぐっても、財政出動を増やすのか、財政規律を強化し財政健全化を重視するのか、まだ明確ではありません。


Q.高市総理はこれまで台湾を重視する姿勢を見せてきました。直近でも自身のSNSで「台湾は重要なパートナー」と投稿しています。


楊伯江 所長
高市氏の第二次世界大戦に対する見方や靖国神社、台湾問題などに関する主張や発言は私自身もよく承知しています。高市氏の台湾に関するSNSの発信は、総理大臣に選出されたときではなく、10月4日の自民党総裁選のあと頼清徳氏が自身のSNSで祝意を表明し、高市氏が応答したものだと記憶しています。高市氏が使ったのは「パートナー」という言葉です。


【注】
 台湾の頼清徳総統の投稿を受け、高市氏は10月13日自身のXに「自民党総裁就任に当たり、温かいお祝いメッセージ、心から感謝申し上げます。日本にとって台湾は基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人です。日台間の協力と交流が深まることを期待します」と投稿した。


高市氏はこれまで台湾問題を含む歴史問題に関して後ろ向きな発言をしてきましたが、日本の行政の最高責任者と政党のトップでは立場が異なります。言動により慎重になるべきです。


木原稔官房長官もここ数年台湾との交流を活発に行ってきました。木原官房長官は「これまでの基盤の上に台湾との実務的な協力を発展させる」といった趣旨の発言をしました。しかし重要なのは、高市政権が台湾問題における中国との約束をいかに忠実に履行するかです。


1972年の共同声明の取り決めは、日本からすれば約束であり、それは絶えず充実化・具体化されてきました。したがって、この問題に関して、高市氏や日本の現内閣は言動により慎重にならなければなりません。中国人の感情からすると、中国と日本の間の台湾問題と中国とアメリカの間の台湾問題は異なります。なぜならば、日本は下関条約が結ばれてから50年にわたり台湾を植民地として支配したからです。中国人の感情からすれば敏感な問題なのです。


ここで注目したいのは高市氏の台湾問題に対する説明です。高市氏は「台湾有事は日本有事」と言っていますが、理由の1つとして台湾と日本の距離が近いことを挙げています。しかし、距離が近いことは根拠とはなりません。距離は根拠にはなりませんので、この問題については慎重であるべきであり、言動に注意するべきだと思います。


Q.高市総理は閣僚在任中も含めたびたび靖国神社を参拝してきました。一方、総理就任後に迎えた秋の例大祭では参拝しませんでした。


楊伯江 所長
高市氏はこれまで毎年のように参拝していましたが、今回参拝せず慎重な姿勢を示したことは、高市氏が理性的であるということを示していると思います。しかし、日本のリーダーにとって靖国神社を含む歴史問題は、単に参拝するかしないかという行動面だけの問題にとどまりません。この問題の敏感さや複雑さを認識すべきだと思います。


要するに、周辺国との関係は日本外交の弱点となっているのです。したがって、靖国神社をはじめとする歴史問題に対処する際、高市氏のような政治家はアジアの歴史や日本と周辺国の関係についての歴史をよく認識する必要があります。そして、政治や選挙で有利か不利かという短期的な視点だけで考えるべきではありません。日本の政治家も問題をよりしっかりと認識して欲しいと思います。


日中首脳会談の可能性は「お互いの良好な意思疎通があるかどうか」

Q.31日から韓国で開かれるAPEC首脳会議に合わせ、高市総理と習近平国家主席が会談する可能性はあると思いますか?


楊伯江 所長
これはあなただけではなく私も関心を持っている問題です。国際会議の場を利用した二国間の首脳会談が実現するかどうかは、事前に良い意思疎通があり、シグナルを送れば相手から積極的な反応が返ってくるという関係があるかどうかだと思います。こうして最終的に、互いに会うべきだ・会うことができると思うようになるのです。これは比較的複雑なことであり、単に顔合わせをするということではありません。ですので、現時点で首脳会談が実現するかどうか明確な見通しは立っていないと思います。国際会議の場で中国と日本が首脳会談を実現できるかどうかは現時点ではなんとも言えません。


Q.高市総理からあまり良いシグナルが出ていないと中国側は評価しているのでしょうか?


楊伯江 所長
高市氏はこれまで国際問題にあまり関わってこなかったと思っています。経済安全保障担当の大臣を務めたことがあり、これが高市氏の経歴のなかで最も注目を集めたポストでした。ですので、高市氏はアメリカや韓国、もちろん中国も含め国際社会や外国に対する実感を持っていないのではないかと思います。


高市氏は総理就任後の会見で、日米関係や日米同盟、日韓関係について言及しました。アメリカや韓国との対話はいずれも差し迫っている案件です。まもなく韓国でAPEC首脳会議が開かれ、トランプ大統領と何を話すのか、李在明大統領と何を話すのかは差し迫ったできごとです。


高市氏は国際情勢について、私たちはいまどのような状況に置かれているのか、私たち人類はどのような時代を生きているのか、体系的な考えや認識を持っていないと思います。よって、総理就任会見では、私の記憶では中国について言及していませんでした。中国に言及しなかったのは、高市氏が中国について考えていなかったということではなく、まだ考える時間が必要だったということなのでしょう。つまり、国際問題に関する経験が豊富ではないということなのです。


牛肉よりも鹿?日本産水産物の輸入再開は「様子見」

Q.今年5月、日中両政府は日本産水産物の輸出再開で合意しました。また、日本産牛肉の輸出再開に向けても交渉が進められてきました。こうした手続きや交渉は高市政権誕生後も止まることなく進むのでしょうか?


楊伯江 所長
中国は福島など10都県を除く日本産水産物の輸入再開を発表しました。牛肉の輸入には、過去に日本でBSEが発生したため、検疫を行う必要があるでしょう。こうした手続きが行われた背景には、石破政権が積極的に動いたということがあると思います。中国からみれば、日本産牛肉の輸入が再開したとしても、全体の輸入量に占める割合はとても低いです。中国は牛肉の輸入大国ですが、輸入先は主にブラジルやアルゼンチンといったラテンアメリカに集中しています。ですので、日本産牛肉の輸入が再開したとしても、中国国内の牛肉市場には価格を含めそこまで影響を与えないでしょう。


一方で、これは日本にとっては重要な問題だと感じています。石破政権で自民党幹事長を務めていた森山裕氏の故郷・鹿児島県は良質な牛肉を生産しており、石破政権が積極的に輸出再開を推し進めていたことと関係があります。


しかし現状では、もう少し様子を見る必要があると感じています。なぜなら、先ほど指摘したように高市総理は中国との関わり方について考えを整理する必要があるからです。今のところ高市氏が関心を示しているのは、日本産牛肉をどうするかではなく、奈良の鹿が外国人観光客に蹴られ虐待されていないかどうかです。


この発言は自民党総裁選の際のものであり、総理指名選挙の際のものではありません。ただ、長期間にわたり政権を担ってきた老舗政党が、高まるポピュリズムや排外主義に合わせるためにこのような発言をすべきではないと思います。高市氏にとっては今後奈良の鹿について調査を行うのかどうかが問題となるでしょう。現地の関係者による「そのような現象は確認されていない」という証言もあるからです。「外国人が鹿を蹴った」というような荒唐無稽で根拠のない発言は控え、日本経済や国民生活のためになる実務を進めていくことを望みます。例えば、中国を含む海外に日本産牛肉の輸出を推し進めることは市民や畜産業界のためになります。


高市氏がこうした実務を進めていくことを望みますが、結論をいえば、中国との手続きや交渉にはまだ時間がかかるでしょう。


連立離脱の公明党 中国にとってどのような存在?

Q.26年にわたる自民党と公明党の協力関係に終止符が打たれました。公明党の連立政権離脱は今後の日中関係にどのような影響を与えますか?


楊伯江 所長
公明党は尊敬すべき政党です。政治理念においては、公明党は平和主義を唱えており右翼的ではありません。また、私が公明党を尊重する理由の1つは、市民との距離が近く、草の根の政党という印象を持っているからです。1999年から自民党と公明党が協力関係を結んできた理由は、公明党が自民党の届かない社会階層、草の根レベルの票を補完できたからだと思います。自民党が不足している部分を公明党が補完してきたことで、両党は26年にわたる協力関係を維持してきたのです。このように、平和・中道を主張し、市民を重視し、市民との距離が近い政党は、尊重される政党だと思います。


また、中日関係でいえば、1972年の国交正常化以前から、公明党の支持母体である創価学会、特に池田大作氏は中日関係を回復・発展させるために貢献してきました。公明党は長年にわたり中日友好・相互協力の分野で重要な役割を果たし続けています。したがって、公明党は、連立与党であろうと野党であろうと中国国民から尊敬される平和の党であると私は考えています。今後も公明党との交流や意見交換を続けていきたいと考えています。


今後の日中関係どうなる?「長期的にはやや楽観視」も現時点は…

Q.今後の日中関係についてはどのように考えていますか?


楊伯江 所長
私個人としては、中日関係はもっと良くなるべきだと考えています。これは外交辞令ではありません。隣国の関係というのはとても宿命的なものです。職場で上司や同僚との関係が悪いのであれば会社を辞めることができます。近隣に住む人との関係が悪いのであれば引っ越すことができます。しかし、隣国はそうはいきません。ですので、中日関係にとって唯一の正しい選択は、平和で友好的な関係を築くことであり、相互に協力する関係を築くことです。


両国にとってお互い利益を得ることができる協力分野もあります。例えば、中国と日本の距離はとても近いですから物流コストを低く抑えることができます。中日両国における経済分野での補完性は競争を上回っています。こうしたことを理性的に評価すべきです。


中国は、日本と健全で安定した戦略的互恵関係を発展させていきたいという政策を一貫して示しています。中国は政府の文書で「日本は中国にとって最大の戦略的挑戦」などと明記したことは一度もありません。直近では去年、中日両国の首脳が戦略的互恵関係を推進するという目標を再確認しました。しかし、日本の国家安全保障戦略や防衛白書は中国を「最大の戦略的挑戦」と位置付けています。日本側の本音が分からず中国国民を困惑させています。日本は中国をどのように見ているのでしょうか?


一方、中国にとって日本の位置付けは比較的明確です。第一に隣国であり、第二に重要な協力パートナーであるということです。第三に、私たちは日本の政治家による歴史の歪曲化には同意せず、日本が台湾問題に関して当初交わした約束を破っていることには同意しません。中日関係を長期的に見た場合、私はやや楽観的に見ています。いち内閣が登場したからといって中日間の平和的で安定的な友好協力関係が途絶えるとは思っていません。ただ、現時点は比較的複雑で難しい段階にあると思います。


今後の米中関係…日本は「代理戦争に巻き込まれぬよう注意を」

Q.アメリカのトランプ大統領がアジアを歴訪します。今後の米中関係をどう見ますか?


楊伯江 所長
高市氏は2022年に安倍晋三元総理が銃撃されたあと自らを「安倍路線」の継承者であると位置付けてきました。「安倍路線」とは何なのでしょうか?高市氏が明確に示している点は2つあると思います。1つは積極財政を主張していること。もう1つは歴史問題に対する姿勢です。ただし注意すべきなのは、安倍元総理が憲政史上最長となる任期のなかで、内政と同時に重要な隣国との関係を発展させることに注力していた点です。そこには中日関係も含まれます。ロシアとの関係改善も積極的に模索していました。現在の日本の行政指導者は「安倍路線」を継承するのでしょうか?それとも一部分だけを継承するのでしょうか?これはリーダー個人の認識の問題だと思います。


アメリカについてですが、この国は中日関係を考えるときとても大きな存在です。アメリカは非常に実用主義的な文化を持っています。現実の利益のために素早く態度を変えます。アジアの隣国であり世界の主要な経済体でもある中日両国は、他国の駒になり、代理戦争に巻き込まれないよう警戒すべきです。代理戦争は日本の政治家が考えるべきとても重要な問題です。


中国とアメリカの関係ですが、私は冷戦時代におけるアメリカとソ連のような関係にはならないと考えています。トランプ政権が誕生してから私たちはトランプ大統領のことを反グローバリズムだと指摘してきました。しかし、トランプ大統領が好むと好まざるとに関わらずグローバル化は長期間にわたって維持され、多くのものが積み重なってきています。このような状況では重要なカウンターパートに対して戦争のような極端な手段をとることはできません。人の交流や経済関係は双方にとって人質のようなものです。ですので、中米関係は冷戦時代における米ソ関係のようにはならないと思います。


ただ、注意しなければならないのは、40年を超える冷戦の期間中、アメリカとソ連の間で直接戦争になることはありませんでしたが、両国の支援のもとで多くの代理戦争が起きた点です。代理戦争の舞台になった国は非常に哀れであり、これは時代の背景によるものです。


また、中国の戦略文化がソ連やロシアとは異なるということもしっかりと理解すべきです。例えば、ソ連やロシアは問題を解決する際に武力を行使するハードルが比較的低いのです。一方でアメリカの研究者から多く寄せられる質問も「中国と日本はいつ、どの海域で衝突し戦争に突入するのか」といったものでした。私たちは武力による問題の解決は想定していませんでした。これは中国とアメリカの戦略文化の違いを反映していると思います。


「日本の政党政治は再検討が必要」今後の日本政治 中国側の注目ポイントは?


楊伯江 所長
高市内閣の登場は日本政治の進歩なのか自民党の派閥政治による堕落なのか、最近の日本政治を考えるうえで研究に値するテーマだと思っています。憲政史上初の女性総理の誕生はかつてない出来事であり、注目し祝福すべきだと思います。ただ、高市氏に女性ならではの主張はなかなか見られません。今回の自民党総裁選での最終的な勝利は派閥によるコントロール、派閥政治によって生まれたものだと思います。麻生太郎副総裁が生み出した傑作であることは明らかです。


日本が採用している間接選挙制度では、議員が党総裁を選び、総裁が党を代表して総理指名選挙に臨みます。議席を最も多く持っている政党のリーダーが総理になる可能性が高いです。ですので、総裁選がはじまったときから有権者にとっては関係がなくなるのです。有権者の影響を受けることはなく民意の束縛からも解放されることになります。最後には数字のゲームになってしまうのです。これは、いち政権や自民党総裁の責任ではありません。戦後の保守政治の責任だと思います。


そして、私が注目しているのは今や老舗の政党は機能していないということです。日本共産党や社民党、自民党、公明党といった老舗の政党は機能していません。おそらく時代遅れになってしまったためで、参政党や日本維新の会といった政党が多くの注目や支持を集めています。


どのような政治構造、政治文化が今日の日本に合っていて、国をより明るい未来に導くことができるのか?日本の政党政治は再検討が必要な段階に来ているのだと思います。日本がより良く発展することを願っています。そうであれば、中日関係もより明るい展望が開けるでしょう。

(インタビューは10月23日)


楊伯江 氏
中国社会科学院日本研究所 所長
中華日本学会 会長
日本国際フォーラム客員研究員やハーバード大学訪問研究員などを歴任。


聞き手 JNN北京支局 松尾一志


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情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

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