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横審“異例の申し入れ”「相撲道における姿を見せる責任がある」不振続きの横綱2人に強い思い、強さと安定を求む【大相撲】

スポーツ
2026-08-10 12:00

番付社会と言われる角界で、その頂点に君臨する横綱の権威が揺らいでいる。7月にIGアリーナで行われた大相撲名古屋場所では、東の豊昇龍(27)が6敗目を喫した翌日の14日目に優勝争いをしている大関霧島戦を前に休場。西の大の里(26)は3場所ぶりに皆勤したものの、9勝止まり。不振続きの2横綱に、ご意見番である横綱審議委員会(横審)が場所後の定例会で八角理事長(63、元横綱北勝海)に対して、異例の「強いお願い」を申し入れる事態に発展している。


千秋楽の翌日、定例会後の会見で横審の大島理森委員長(79)が両横綱への思いの丈をぶつけるように話し出した。「名古屋場所は非常に盛り上がりましたが、両横綱に対する委員の皆様方のご意見を総じて申し上げると、一層、横綱としての責任、自覚。心技体の言葉を基にして、一層自分自身に問いかけ、体を万全にし、相撲道における姿を是非、見せていただく責任がある。私どもの共通の認識として理事長の方から是非、両横綱に伝えて欲しい、と申し上げた」


1950(昭和25)年に、3横綱の休場を機に発足した横審は、日本相撲協会から諮問される横綱昇進の議案を審議するほか、不振や休場続き、素行に問題がある横綱に対して、委員の3分の2以上の決議で「激励」「注意」「引退勧告」などが出来ると定められている。過去には朝青龍に「引退勧告」。白鵬、鶴竜に「注意」、稀勢の里に「激励」を出したこ
とがある。


しかし、今回はその決議まで踏み込むことはなかったという。委員長は「決議の議論はありませんでした。強い、強い思いを理事長に伝えさせていただいて、そのことを両横綱に必ず伝えていただく。決議を見送ったという表現は、いささか妥当ではなく、そこまでの議論の深まりはまだまだで、事実とはちょっと違う。その前段階かもしれない。委員の皆さんが『頑張って欲しい』『責任を果たして欲しい』という思いを強く理事長に申し上げた」と話した。


“横綱の不振”豊昇龍は休場、大の里は9勝止まり

横審の総意はファンにとっても同じ思いだろう。昇進9場所目の豊昇龍は中日までは2敗だったが、後半戦は関脇琴勝峰(26)に勝ったのみ。優勝した安青錦(22)のほか、ともえ戦進出の熱海富士(23)、新小結義ノ富士(25)、9日目で4勝5敗だったカド番大関の琴桜(28)にも敗れた。横綱初優勝を目指していたものの、逆に横綱で4度目の休場に追い込まれた。


相変わらず、負けるとコメントしない横綱に代わり、師匠の立浪親方(元小結旭豊)が事情を説明した。「先場所痛めたハムストリング(太ももの裏)が治ってなかった。(休場は)本人から(言ってきた)。不甲斐ない相撲は取れないということで。場所前に出場を判断してしまった私の責任もある。準備不足もあったし、ファンや協会には何度も謝っている。本人も『応援する人に申し訳ない。すみません』と謝っていました」


一方の左肩のけがから復活を目指す大の里も序盤に1勝3敗となり、全く優勝争いには絡めなかった。13日目以降は平幕尊富士(27)、琴桜、負け越していた琴勝峰に3連勝したが、存在感は薄かった。15日間を終えた千秋楽に支度部屋ではこう話した。


「求めている数字ではなかったが(休場せずに)最後まで戦ったことが少しでも今後の力になってくれたらいい。今場所はどうなろうとも15日間出ると決めていた。自分の相撲人生はまだ、まだなので。綱の重みどうこうではなく、去年から思った通りに出来ない自分が続いて。いろんな人に励まされて力にもなった。また精いっぱい(精一杯)やっていきたい」


15日制で皆勤して8敗を喫した横綱は過去2人。大乃国と若貴兄弟の兄・3代目若乃花だ。名古屋場所は豊昇龍が休場前の13日目を終えた時点で、両横綱がともに6敗だった。最悪の場合、両横綱が皆勤すれば、千秋楽の結びで敗れた方が負け越すという優勝争いでは別の興味がわく可能性も考えられたほどだ。


不振の要因“金星配給の多さ”

ともに不振の最大の要因は、序盤で平幕力士に星を落とす金星配給の多さだろう。豊昇龍は名古屋場所でも藤ノ川(21)、伯乃富士(22)に敗れた2個と合わせて17個目を記録した。大の里も同じ藤ノ川と豪ノ山(28)に星を落とした。こちらは昇進7場所目で13個になる。


敗れた勝負を見ると、豊昇龍は横綱としての強さを強調したいあまりに張り差しや強引な投げを試みたり、相手を吹っ飛ばすような出足で逆転を食らうことが目立つ。しっかり頭で当たり、攻め込んでから相手を捕まえていけば、取りこぼしは減ると思う。


大の里は完璧主義者なのだと感じる。当たって右差し、2歩目、3歩目で優位に立てない時に、そこから慌てて引いてしまう悪癖が治らない。体勢が悪くなって引くというよりも、まだ五分五分の状態から自ら墓穴を掘るパターンが定着している。常に完勝出来るわけではない。一気に優位に立てなくても、落ち着いて我慢する取り口を身につけないと、これから先、長く最高位を保っていくのが難しくなるのではないか。


今年はここまで初場所から4場所は大関の安青錦、関脇の霧島(30)、小結の若隆景(31)、関脇の安青錦といずれも大関以下の3力士が12勝3敗で優勝した。実は58(昭和33)年に名古屋場所が始まり、年6場所制になって以降、年間を通じて横綱が一度も優勝できなかったことが一度だけある。92(平成4)年だ。この年は北勝海、旭富士の2横綱の晩年で旭富士が初場所で引退。北勝海は初場所全休、春場所3敗12休で夏場所前に引退した。このため、約60年ぶりに横綱不在になった年で、貴花田(後の横綱貴乃花)と曙が初優勝から2度ずつ優勝を飾り、曙は翌年初場所後に史上初の外国出身横綱に昇進した。「曙貴時代」の幕開けになった年である。


しかし、横綱不在があったこの年を除けば、綱を締めた力士が最低1場所は賜杯を手にしている。9月の秋場所、11月の九州場所で両横綱のどちらかが優勝を果たせなければ、最高位の力士が在籍しながら初場所から九州場所まで年6場所の優勝を全て大関以下に譲るという初の屈辱を味わうことになる。


2人の昇進後、横綱の優勝は昨年秋場所に13勝2敗で並んだ両横綱の決定戦で大の里が勝った1度切り。来場所は安青錦が大関に返り咲き、霧島も横綱への挑戦権が継続されている。3度目の決定戦で敗れた熱海富士も初優勝を狙う。幕内の上位陣も横綱戦を嫌がるよりも、楽しみにしている様に映る。楽に勝てる相手は余りいない。「品格、力量抜群」と推挙された横綱に求められるのは、やはり強さと安定だろう。左足のけがを抱えながら名古屋場所を制した安青錦をみれば、体調面を理由にした言い訳は聞きたくはないのが本音だ。2横綱が綱の権威を示すのに、皆が待ってくれる時間は、もう残り少ない。


(スポーツライター・竹園隆浩)


※写真は、名古屋場所14日目豊昇龍休場により霧島の不戦勝を告げる垂れ幕
 


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