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世界の“今”と日本の未来をつなぐ6日間――名古屋で誕生する新映画祭「ANIAFF」が目指すもの

エンタメ
2025-12-12 12:30
世界の“今”と日本の未来をつなぐ6日間――名古屋で誕生する新映画祭「ANIAFF」が目指すもの
「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(左から)真木太郎氏、井上伸一郎氏、数土直志氏 (C)ORICON NewS inc.
 世界各地で独自の進化を遂げ、映画、テレビ、ゲーム、配信と領域を越えて拡張を続けるアニメーション。その“現在地”を一望できる新たな国際映画祭、「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル(ANIAFF)」が、12月12日から17日までの6日間、愛知県名古屋市で開催されている。

【動画】新たな祭典「ANIAFF」予告編

 今回は、フェスティバル・ディレクターの井上伸一郎氏、ジェネラル・プロデューサーの真木太郎氏、アーティスティック・ディレクターの数土直志氏に、新たな映画祭を立ち上げた理由と、そこに込めた思いを聞いた。

■“ビジネスの日本アニメ”ではなく、“クリエイティブの日本アニメ”を語り直したい

真木太郎
 「日本のアニメーションは、いまや“グローバルコンテンツ輸出産業”として語られる存在です。アニメのイベントも数多くありますが、“作り手が主役になる映画祭”として、もっとアカデミックに、日本と世界のクリエイティブを見つめ直す場が必要だと感じたんです。

 国際映画祭という立て付けにすることで、日本作品だけでなく、世界のアニメーションの中での日本の位置づけも自然と見えてくる。互いに刺激し合いながら、マーケットの拡大と国際的評価の向上につながる場をつくりたいと考えました」

■“日本が中心になる”ためのハブは、これまで意外と存在しなかった

数土直志
 「日本のアニメは世界規模で盛り上がっています。だったら、“日本が世界のアニメーションの中心”になっていいはずなんです。でも実は、その“ハブ”となる場所が、これまでなかった。

 日本のアニメだけを集めるイベントはたくさんありますが、世界中のアニメーションを集め、そこに日本の作品も並べて、一気に外へ発信する――そういう中心地が、日本には必要だったと思います。“日本の中心”ではなく、“世界の中心になる”ための映画祭。それがこのANIAFFです」

■“世界が日本アニメを見る時代”は、次の段階に入っている

井上伸一郎
 「ここ数年、日本のアニメーションは何度目かの“世界的ブーム”の渦中にあります。今年は『鬼滅の刃 無限城編』がアメリカでヒットし、『チェンソーマン レゼ篇』もランキング1位を獲得した。これは一過性の現象ではなく、コロナ禍を経て、世界中の人たちが日本のアニメに触れる機会が爆発的に増えた“結果”だと思っています。

 いまは、日本のアニメーションの力を世界に定着させる、非常に重要なタイミングです。ただし、興行的な“量の評価”はすでに十分に得られた一方で、まだ足りないのが“質の評価”――つまり、賞や評論といった形で歴史に残る評価です。映画祭は、それを生み出すための“場”になり得る。今回、アニメーション業界最高峰とされるアニー賞との日本初の公式コラボレーションが実現したのも、まさにその文脈のひとつです」

■「アニー賞」とのコラボレーションについて

 同映画祭は、アニメーション業界の最高峰とされる「アニー賞」を主催する、国際アニメーション映画協会の中で最大の支部であるASIFA-Hollywoodとの日本初の公式コラボレーションが決定。アニー賞は1972年に始まった、アニメーションに特化した歴史ある賞で、世界中のクリエイターからひと目置かれる存在だ。

 宮崎駿(※崎=たつさき)監督の『千と千尋の神隠し』が2003年に長編アニメーション作品賞など4部門を受賞したほか、19年には細田守監督『未来のミライ』が長編インディペンデント作品賞を受賞。24年には宮崎監督の『君たちはどう生きるか』が絵コンテ賞とキャラクターアニメーション賞を受賞するなど、日本作品もたびたび高い評価を受けてきた。

 アニー賞を“お手本”にできることは、ANIAFFが国際映画祭としての確かな軸を打ち立てていく上でも心強いかぎりだ。

■“冒険できない時代”だからこそ、映画祭で未知と出会ってほしい

 一方で、実際に動員が伸びるのは、漫画原作のテレビアニメシリーズ発の作品がほとんどであることも課題だ。オリジナルの長編アニメーションは、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭など海外の映画祭で評価されることはあっても、興行的に苦戦しているのが現状だ。

井上
 「その背景には、“タイパ”“コスパ”を強く意識する今の時代性もあると思っています。昔は“よく分からないけれど観てみよう”という冒険ができた。10本中9本ハズレでも、1本が“人生の一本”になる、という楽しみ方ができた。でも今は、選択肢が多すぎて、少しでもリスクがあるものは見送られてしまう。

 だからこそ、映画祭という“非日常の場”が大切だと思います。世界中から、普段はなかなか観られない作品が集まり、“冒険”ができる場所です。そこで出会った1本が、一生忘れられない作品になる可能性もある。これは上から目線からの発言ではなく、私自身がそういう体験をしてきたからこそ、強く思うんです」

■国際コンペティション部門――世界と日本を結ぶ“評価の場”

 観る側にとって冒険できる「まだ知らない傑作と出会う場」の最たるものが、映画祭のコンペティション部門だ。その映画祭が「どこを目指しているのか」を最も端的に示す存在でもあり、カンヌ国際映画祭におけるパルム・ドール、ベルリン国際映画祭における金熊賞のように、コンペ受賞作はそのまま「映画史の評価軸」となる。アニメーション分野においては、アニー賞が“商業的ヒット”とは別の次元で、「歴史に残る評価」を与え続けてきた。

 ANIAFFでも第1回から国際コンペティション部門を設置。2024年1月以降に完成した40分以上の長編アニメーション作品を対象に募集を行ったところ、初開催ながら約3ヶ月で29ヶ国から45作品の応募が寄せられた。

 この中から、『ひゃくえむ。』(監督:岩井澤健治)、『ホウセンカ』(監督:木下麦)、『無名の人生』(制作・監督:鈴木竜也)の日本作品3本を含む11作品が正式出品作として選ばれ、期間中に上映される。

 これまで日本のオリジナル長編アニメは、国内よりも先にフランス・アヌシーなど海外映画祭で評価されるという“ねじれた状況”が続いてきた。ANIAFFの国際コンペは、その評価の受け皿を初めて日本国内に取り戻そうとする試みでもある。

■世界のアニメは、もう“日本だけのもの”ではない

真木
 「“アニメといえば日本”と言われがちですが、実態はもうそうではありません。世界中で本当に多様なアニメーションが生まれています。そして、その多くのクリエイターが、日本のアニメを観て育っているんです」

数土
 「今回の国際コンペティションには、初回にもかかわらず世界29ヶ国から45本の応募がありました。ラテンアメリカ、東ヨーロッパ、インド、イランと、本当に多彩です。“世界ではこれほど多くの長編アニメーションが作られている”という現実を、日本で体感できる場になるはずです」

真木
 「いまは“平均点の高い作品”が求められがちですが、本当に新しいクリエイティブは、平均点の外側から生まれてくることも多い。映画祭が“尖った挑戦”に光を当てる存在になれたらと思っています」

■批評が育つことは、文化が根づくこと

 映画祭が持つもうひとつの重要な機能として、「批評を育てる場」であることを挙げる。

数土
 「SNSが普及して、誰もが簡単に感想や意見を発信できる時代になりました。でも、そもそも“作品を観る機会”がなければ、批評は生まれません。映画祭のいちばん大事な役割は、まず“観る場”をつくることだと思っています。

 いろいろな作品を観て、それについて語って、賛否を含めて言葉が積み重なっていく。そうして初めて、批評というものが育っていくんじゃないでしょうか。

 批評が育つというのは、そのジャンルが“使い捨ての消費”ではなく、“文化として根づいていく”ということでもある。作品が観られ、語られ、評価されて、次の創作につながっていく。その循環を生む場所として、映画祭には大きな意味があると感じています」

■国際映画祭は“上映”と“マーケット”の両輪で回る

 ANIAFFでは、上映に加え、企画マーケット「ANIMART」も同時開催される。

真木
 「世界の大きな国際映画祭は、ほぼすべて“上映”と“マーケット”がセットです。完成作品ではなく、“企画段階”のアイデアが世界と出会う場として、ANIMARTを位置づけています」

井上
 「数年後、“あの作品は実は名古屋の映画祭から生まれた”と語られるようになる。それがひとつの理想です」

■名古屋という“文化都市”から、世界へ

真木
 「ジブリパーク、世界コスプレサミット、あいち国際女性映画祭、国際芸術祭(あいちトリエンナーレ)など、愛知・名古屋には長年続く文化イベントがたくさんある。そこにアニメーションの国際映画祭が加わることで、ひとつの“本丸”になれたらと思っています」

■世界と日本の“次の扉”を開くために

 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の世界累計興行収入は7億6894万3856ドルで、今年の世界興収ランキング6位。『チェンソーマン レゼ篇』は1億5018万8437ドルで27位。2025年の世界最高興収は中国アニメーション『ナタ 魔童の大暴れ』で19億232万3300ドル、さらに韓国のアニメーション映画『The King of Kings』も北米でヒットし、世界興収7893万2783ドルを記録している(12月9日時点、Box Office Mojo調べ)。

 アニメーションの“興行力”が高まるいま、商業的成功のその先にある「評価」と「記憶」に残る作品を、いかに生み出していくか。名古屋から始まるこの挑戦は、日本のアニメーションが“次のフェーズ”へ進むための、重要な試金石となりそうだ。

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